『COTTON 100%』復刊までの道のり <エピローグ>

2005, by AKIRA

 運命の2003年9月30日、午前7時5分。
突然、見知らぬ編集者からメールがきた。

 はじめまして現代書林企画部・坂江と申します。
 いきなりですが、「COTTON 100%」で私の人生が変わりました。
 限られた一生の中で、このような本と出会えたことを幸運に思います。
 うろ覚えではありますが、AKIRA様の言葉「人は他人に夢を託した瞬間から敗北者になる」この言葉があったからこそ、今の自分がここにあるのかも知れません。
 HPでも拝見しましたが、「COTTON 100%」を現在他社からの出版を考慮中との事ですが、もう決められたのでしょうか?
 私は、是非この出版を手がけさせて頂きたいと考えております。
 もし御了解さえ頂ければ、さっそく編集会議の方に掛けたいと思います。
 AKIRA様になんとかコンタクトが取れないかと思い、メールをさせて頂きました。
 宜しくお願いします。

 当時「COTTON 100%」は、いくつかの出版社から単行本、文庫本、オンデマンド出版などの打診があり、あとからきた出版社で出すつもりはなかった。しかもネットで現代書林を検索してみると、健康関連の書物やサラリーマン向けの自己啓発本などを出していて、「COTTON 100%」などの小説とは無縁のものと思われた。
それでも熱烈な一読者として坂江くんに話だけでも聞いてみるかと、かるい気持ちで会うことにした。

 御返事ありがとうございます。
 私も是非、お会いして話をさせて頂けたらと考えておりました。
 では、10/4(土)午後4時でお願いいたします。
 場所なんですが、四日・五日と会社のクリーニングがありまして中に入る事ができません。となると、お越し頂く場合に会社の近くの公園しかなくなってしまいます。
 そこで、新宿駅東口・紀伊国屋本店の裏の(駅を出て紀伊国屋の手前の道を左に曲がる)ロッテリアの上にある「ランザン」という喫茶店で如何でしょうか?
 念の為、なるだけ一目で判るような格好で行きます(素っ裸とまでは行きませんが。)
 紺色のジャケットにボーダーのシャツ。目立つ所に座るよう心がけます。

 10分ほどおくれて「ランザン」にはいると、正面のテーブルに座っていた青年と目があった。彼の言うほど目立つ格好ではなかったが、目が異常な熱気を発していたからである。灰皿の上にうずたかく積みあげられた吸い殻、しかもほんの数センチでもみ消しているところが彼の尋常ならぬ緊張を物語っていた。
直立不動で立ちあがった青年は、花嫁の父にあいさつするがごとくカチコチに固まって頭をさげた。
「日光からお越しいただいて、本当にありがとうございます。ぼ、ぼく、AKIRAさんにお会いするのが夢だったんです!」
彼の全身から燃え上がる情熱に押されながら、オレはイスに座りこんだ。彼が語った内容を「COTTON 100%」から引用してみる。今回の編集者坂江は、三年年ほどまえコンサルタント営業の仕事をしていた。ノルマに達しないと上司から殴るは蹴るはの暴行を受け、対人恐怖症に陥った。退職し、自宅にひきこもった。人間という生き物が恐くて恐くて、コンビニにいくことさえできない。ガリガリに痩せこけ、廃人寸前だった。見かねた友人が一冊の本を置いていった。「COTTON 100%」だ。坂江は爆笑し、号泣しながら、何度も何度も読み返した。愛していいんだ、人間を愛していいんだとつぶやきながら、体のなかに力が湧いてくるのを感じたという。同文書院が倒産したのを知り、坂江はひとつの目標を見つけた。自分の手で「COTTON100%」を復刊させてやると。坂江は人が変わったように十数社の出版社で面接を受ける。現代書林に入社し、オレにメールした。

 オレの書いた1冊の本が人を救えるものなのか。ひとりの人間の情熱がこれほどまでに心を動かすものなのか。気がつくとオレは出版のオッファーをくれた他の編集者にお詫びと断りのメールを出し、この青年の情熱に賭けてみることにした。

 そして2004年11月20日、渋谷スペースエッジにて、めるくまーるからでた最新作「神の肉 テオナナカトル」と復刊された処女作「COTTON 100%」の出版記念パーティーがおこなわれた。
「COTTON 100%」の表紙を描いてくれた人気アーティスト小田島等さん、作家仲間の田口ランディさん、雨宮処凛ちゃん、オレのドキュメントを撮ってくれた野澤和之監督、北海道や沖縄まで超満員のお客さんたちがかけつけてくれる。まるで最初の夫を失った(同文書院の倒産)「COTTON 100%」の2度目の結婚式であり、仲人はもちろん坂江くんだ。廃人寸前まで落ちた男が一冊の本と出会い、自力で夢を成就させた記念日でもあった。

>>『COTTON 100%』復刊までの道のり <前編>

>>『COTTON 100%』復刊までの道のり <後編>

『コットン100%』

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